要旨 組立作業とは,複数の部品を一つにする作業である.組立作業を成功させるた めには,部品の位置決め誤差や公差などの不確実性に対処しなければならない. 従来の組立機械では,個々の部品の絶対位置を確保することにより,作業を達 成してきた.しかしながら,異形部品,変形しやすい部品,公差が大きい部品 の組立など,対応が難しい作業も多い.人間作業者が製品を組み立てるときは, 部品どうしを接触させ,その際の力学的特性を利用して一方の部品を他の部品 の面にならわせ,不確実性を吸収している.したがって,組立作業を確実に実 行するための一つの方策として,部品間の接触をどのように利用すればよいか を解明し,それを組立機械上で実現することがあげられる.そこで本解説では, 組立作業における運動学・力学的側面について述べる. 緒言 組立とは,複数の部品を結合し,一つの製品を作る工程である.組立の自動化 に関する研究開発は,長年にわたって行なわれており,さまざまな工程が自動 化されている.一方でまた,自動化がなかなか進展しない工程が少なくないの も事実である.現在,自動化があまり進んでいない組立作業は,最終工程に近 いところに多い.その理由として,1) 前工程で生じる組立誤差のため,部品 の寸法のばらつきや位置決め誤差が大きくなりやすい,2) 変形しやすい部品 が多く使用されている,という点が指摘できる.従来,組立作業の自動化は主 に,個々の部品の絶対位置を確保することにより,達成されてきた.この方法 は,オープンループで制御することができ,タクトタイムを短くすることがで きるが,上述の問題点を解決することは容易ではない. 組立作業は,ロボット工学においても重要なターゲットの一つであり,マニピュ レータはその開発当初から,組立作業への適用が試みられてきた.組立作業に 関する研究を契機とし,マニピュレータのさまざまな制御則や機構が提案され ている.たとえば,部品の把持やパレタイジングなどの研究から,コンプライ アンス制御を始めとする力制御の技術が発展している.軸の挿入に関する研究 からは,RCC(remote center compliance)などのデバイスやSCARA(selective compliance assembly robot arm)などの機構が生まれている.また,組立作業 の教示に関する研究から,力帰還の技術やRAPTなどのプログラミング言語が提 唱されている.これらの研究の特徴は,作業者が製品を組み立てるときのよう に,力覚や視覚に代表される,感覚器の利用を試みている点にある.人間が組 立作業を実行するときは,力覚や圧覚により部品の当たりぐあいを検知したり, 視覚により組付位置を設定するなど,感覚器によるフィードバックを行なうこ とにより,部品の位置決め誤差や形状の変形などの,組立作業中の不確定性に 対処する.このような人間の技能を,機械システム上に実現することができた ならば,不確定性の高い最終組立や変形しやすい部品の組立の自動化に,寄与 するところが大きい. 組立作業の自動化を考える上で,Draper研究所におけるRCCの研究開発は,示 唆するところが多い.Nevinsらはまず,軸穴のはめ合い過程を力学的に解析し, 組立作業モデルを構築した.次に,作業モデルを用いて,作業を容易に実行で きるための条件を得ている.この条件を満たすように制御系を構成し,センサ フィードバックによる作業を実現した.さらに,メカニカルなデバイス,すな わちRCCを開発し,フィードバックなしで作業を実行することに成功している. このように,人間の技能を機械上に実現するひとつのアプローチとして,作業 過程を力学的に解析し,作業の戦略やコツを解明するという方法がある.そこ で本解説では,組立作業における作業モデル,組立作業の戦略や制御則の導出 について述べる. 結言 本解説では,組立過程のモデリングに関する研究を紹介するとともに,組立動 作の計画に関する研究について述べた.組立作業は,1)部品どうしや部品とハ ンドとの接触あるいは衝突を伴う,2)作業状態が離散的に変化する,という性 質を持っている.これらは,組立作業や把握など,一般にマニピュレーション とよばれている作業に特徴的な性質であり,マニピュレータ等の機械システム の運動と異なる点である.しかしながら,根本となる力学の原理は,どちらも 基本的には同じであるので,マニピュレーションの力学と制御は,マニピュレー タのそれと同様の展開が期待できよう.マニピュレータをはじめとする機械シ ステムの力学は,幾何学(geometry),運動学(kinematics),静力学(statics), 動力学(dynamics),とから成り,これらの基礎の上に,設計(design)や制御 (control)の理論が構築される.本解説の構成は,同様の流れに沿って,組立 動作を理解しようという意図によるものである. 組立過程のモデリングでは,部品を剛体と仮定し,組付過程を準静的に扱って いる研究が多い.組立動作の計画も,基本的にこの流れの上にある.しかしな がら,実際の組立過程では,動力学的特性,摩擦,材料特性といった要因が強 く影響する.今後は,このような要因の扱いと理解が必要になると考えられる. 組立過程の理解が深まるにしたがい,どのようなセンサを用い,どのような方 策で運動を与えれば,作業を巧みに,しかもロバストに実行できるかという, 基本的な作業戦略が得られると期待される.すなわち,組立過程の力学的挙動 を理解することで,組立機械システムの制御系を設計する指針が得られる可能 性が高い.また,制御系の設計のみならず,組立機械の設計においても,その 結果を利用しうると考えられる.